令和3年度第2回業務研修会Q&A

2021.07.01

質問1:売主が境界確定のための費用負担を拒んだ場合、対処の仕方などはありますか?
回答
売買契約の締結前であれば、境界確定の費用負担について売主が拒むのであれば、協議して解決するしかないでしょう。その点で売主・買主双方が譲歩しないのであれば、契約の締結自体が困難です。
売買契約の締結後に、売主に境界確定の義務があるにもかかわらずそれを拒んでいるということであれば、売主の違約となり、それによって買主が重大な不利益を被るのであれば売買契約の解除も検討することになります。
売買契約において、境界確定の具体的作業は買主側で行い、売主はそれに対する協力と費用負担のみとする内容であった場合は、売主に対して費用を金銭請求することになるでしょう(この場合は契約違反の軽微性から契約の解除までは難しいことが多いでしょう)。

質問2:複数の物件を賃貸している非宅建業者の個人は、事業者、商人、消費者のどれに当たりますか?
回答
ケースバイケースで判断せざるを得ない難しい問題です。賃貸により賃料収入を得ている以上は、「賃貸」においては所有者は個人であっても「事業者」ですが、そのことのみをもって「売買」においても所有者が「事業者」にあたると解すべき必然性はないと思われます。
ただ、賃貸物件の数が複数ということであれば、その規模によっては売買においても「事業者」と判断される可能性も高まるでしょう。
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」第2条第2号関係1では、「宅地建物取引業」に該当するかの判断基準として、①取引の対象者、②取引の目的、③取引対象物件の取得経緯、④取引の態様、⑤取引の反復継続性を挙げていますが、「事業者」・「商人」に該当するかの判断においても、この基準は参考になると思われます。
例えば、複数の賃貸物件を所有していたとしても、それが相続で取得したものであれば「消費者」である可能性が高まり、売買で取得したものが多ければ「事業者」である可能性が高まります(③の観点)。
売主が、相続税納税のために売却するのであれば「消費者」である可能性が高まり、単に利益を得る目的であれば「事業者」である可能性が高まります(②の観点)。
売買の回数が、宅建業と評価されるほどに頻繁ではなくても、過去に何度か取引があるということであれば「事業者」である可能性は高まり、今回のみということであれば「消費者」である可能性が高まるでしょう(⑤の観点)。
また、「商人」とは「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」(商法4条1項)をいいます。ここにいう「商行為」には、「営業として」「賃貸する意思をもってする動産若しくは不動産の有償取得若しくは賃借又はその取得し若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為」が含まれます(商法502条1号)。
わかりにくい表現ですが、要は、他人に貸す目的で不動産を買ったり借りたりすることや、その目的で買ったり借りたりした不動産を他人に貸すことを、利益を得る目的で繰り返すつもりがあれば「商人」にあたるということです。
したがって、収益物件を複数購入する不動産投資を行っている個人は、「商人」にあたる可能性も十分にあります。
このように、事業者、商人、消費者の該当性判断は大変難しいので、売買の仲介にあたってはこの点を慎重に検討し、当事者に誤った説明をしたり売買契約書に無効な条項を記載することがないように配慮する必要があります。

付随して事務局より質問:売主が非宅建業者として、①宅地を分筆して売る場合、②競売等で仕入れて投資物件として利用していたが後々に売る場合、③オープンハウスで使用していた戸建を売る場合など、業法の解釈と運用の考え方が明確でないため、仲介業者により違反の認識に齟齬があります。どうなったら違反になるのか、罰則はどのようなものなのか?
回答
結局は上記①~⑤の観点でのケースごとの判断です。相談を受けても当事者以外には知り得ない事情もあるため、明らかに違法な場合を除き、弁護士や協会が明確な回答をすることは難しいでしょう。

質問3:物件調査の際、調査する側の専門知識として、例えば建築業も兼業している関係で物件の傷みが分かったとしても、一般的な宅建業者と比べてどこまで記載すればよいのか?
回答
業法47条は故意による事実不告知を禁止しており、宅建業者が「物件の傷み」として認識している以上、それが一般的な宅建業者では気づかないものであったとしても、具体的に重説に記載して説明する必要があります。

質問4:ローンあっせんの部分が分かりません。ローン特約は、あっせん内容が2行以上の銀行で変わる場合どう記載しますか?1行不能でしたら、ローン特約による解約と説明すべきでしょうか?
回答
あっせん内容が2行以上の銀行で変わる場合は、その他欄や別紙を使って記載・説明をしてください。
2行記載があり、1行不能の場合に、契約の扱いについて不明確であるためにトラブルとなることは少なくありません。買主有利に解釈されるケースが多いと思われますが、トラブル回避のため、1行不能の場合に当然に契約解除となるかなどを十分に当事者と検討し、売買契約書で具体的に特約として明記するとともに、重説にも記載して説明してください。

付随して事務局より質問:会員業者が「ローン特約」というワードを使用しますが、事務局からは必ず「ローン条項」と言い直します。契約書の雛形にデフォルトとして約定されていますので、特約という扱いはニュアンスが違うと感じます。どちらのワードが正しいのでしょうか?確かに昔は特約でしたが現在はむしろローン条項が当たり前で、ローン条項を削除した場合は、本契約はローン条項が付与されてませんと説明しなければ、仲介業者の説明違反になった判例等があったと思います。
回答
法的には、いずれも誤りではありません。民法の売買契約に関する定めにローンに関するものはないという意味では「ローン特約」ですし、あらかじめ印字された契約条項であり特約欄の記載ではないという意味では「ローン条項」でしょう。
もちろん、ご指摘の判例のようにローンに関する定めは入っているのが原則だという裁判所の考え方を強調する意味で、「ローン条項」との表現を基本とされることも問題ありません(ただ、「ローン特約」との表現が誤りというのは言い過ぎでしょう)。

質問5:建蔽率オーバーの違反(隣地を借地し合法としていた時期もありましたが、現在は借地していません)の物件は売却不可能ですか?買主が必要であれば可能ですか?
回答
現状では、建蔽率オーバーの物件の売却自体は禁止されていませんが、かかる違法建築であることを買主に十分に理解させておく必要があります。その際には、違反の具体的内容を説明するだけでなく、将来の除却・使用制限といった是正命令等の可能性、増改築・再建築における同規模・同一用途の建築ができない可能性、一定の使用目的に関する許認可が制限される可能性、融資の担保として不適格であり転売に支障が生じる可能性など、買主が受ける不利益についてできるだけ説明しておくことが望ましいでしょう。